俺には勉強しかない

140字のその先

弱者男性の抜け出し方(読書メモ:『男子劣化社会』)

『親たちはかつてティーンエイジャーの我が子がセックスをしているのではないかと心配した。 今、彼らは我が子がセックスをしていないのではないかと心配し始めている。』

———へレン・ランビロー、「ザ・タイムズ」紙


『男子劣化社会』(晶文社)を読了した。

感想としては、素晴らしい本だった。
30手前にして彼女も作らずに昼夜問わずインターネットをしている
弱者男性(=劣化した男性)の当事者としては、身につまされる内容だった。

この本は

  • 第I部:男がどのように劣化したか
  • 第Ⅱ部:なぜ男が劣化したか
  • 第Ⅲ部:男の劣化を食い止めるにはどうすればいいか

の3部構成になっている。

各章の論理構成、ミクロ/マクロ両方の視点からの分析は非常に緻密で、
とても1つの感想記事に収まる分量ではないため、
当記事では(自戒の意味も込めて)第Ⅲ部の「男の劣化を食い止めるにはどうすればいいか」の内容について取り上げたいと思う。

また、第3部は政府/学校/両親/男たち/女性/メディア、と行動主体ごとに章立てがなされているが、
当記事では「男の劣化を食い止めるために、男たちにできること」についてのみ言及する。

弱者男性とは

『壊れた男を治すより、強い子どもを育てるほうが簡単だ。』

———フレデリック・ダグラス、アフリカ系アメリカ人の社会改革家、奴隷解放運動のリーダー


「弱者男性」とは、インターネット上のジェンダー界隈でよく用いられる言葉であり、
外部からの助けを必要とする程に経済的、社会的に困窮している独身男性の総称である。

gendai.ismedia.jp

女性や障がい者、児童、老人などの弱者(=外部からの助けを必要とする存在)とは異なり、
外からの支援や救済の手段がない、またその対象となりにくい事や、
当事者側が救済を求めにくい等の問題を抱えている。

『男子劣化社会』(以下、本書と表記)では、弱者男性の特徴(症状)として

  • 学力の低下
  • 労働力からの脱落
  • 過度なシャイネス、社会性の欠如
  • ゲーム中毒
  • 肥満
  • ポルノ中毒
  • ドラッグ依存

などが挙げられていた。

私個人の見解としては、「彼女(妻)が欲しいのにいない男」は全員弱者男性として扱っていいと思う。

弱者男性の抜け出し方①:ポルノを見るのをやめる

本書では、ポルノ依存がいかに男性の性的価値観、社会生活および男性機能に対して
いかに悪影響を及ぼすかについて、かなりのページ数を割いて説明している。

簡潔に要約すると、ポルノの過度な視聴は鬱や健康障害を発症しやすくなる、
実際の性行為の際に興奮できなくなる(=ポルノED)、報酬回路がすり減り無気力になる、
などの悪影響を男性に及ぼすとされている。

私個人の経験からしても、この悪影響は十分発生しうるリスクがあると思う(特にポルノED)。

そのため、弱者男性を抜け出すにあたっては、まずはポルノをきっぱりやめて健康を取り戻す必要がある。
実際、ポルノの視聴を辞めると、ドーパミンの受容体が回復し、報酬回路の感受性が正常化されるようだ。

注意が必要なのは、ポルノ依存症はインターネット依存症と密接に結びついているということだ。
現代ではわずか数クリックでポルノの視聴が可能なため、ポルノの視聴を減らす/辞めるためには、
インターネットそのものから距離を置く必要がある。

言葉を選ばずに言うと「インターネットやめろ」「想像で抜け」ということだ。

弱者男性の抜け出し方②:時間の使い方を見直す

自分が1日の時間をどんな事に使っているかをモニタリングする。
そして、ゲームやSNSに過度な時間を割いていないかをチェックしよう。
この2つは弱者男性への片道切符だ。

本書では、「1日4時間以上のゲーム」を過度な時間とみなしている。
SNSについては言及がされていなかったが、1日2時間以上やっているなら「過度」とみなしていいだろう。

この2つが上の水準を超えているのであれば、弱者男性をやめるために
ゲームやSNSに費やす時間を減らし、別の有意義なアクティビティに振り分ける必要がある。

弱者男性の抜け出し方③:スポーツをはじめる

『私たちはみな、二つの痛みのうちどちらかを選ばなくてはならない訓練の痛みか、後悔の痛みか。』

———ジム・ローン、起業家、モチベーションについての講演家


スポーツはに自信と健康を与えてくれるだけでなく、コミュニケーション能力や社交性に直接的な好影響を与え、
女性を含む他者とふれ合う機会を我々に提供する。

弱者男性を抜け出すために、デジタルアヘン窟を抜け出し、なんでもいいのでスポーツを始めよう。
もしスポーツが苦手ならば、歌やダンス、楽器の演奏などのアクティビティも有効だ。

手前味噌だが、「何を始めればいいか分からない」人は、下の記事も参考になるかもしれない。

doordonts.hatenadiary.com

弱者男性の抜け出し方④:ベッドメイキングをする

『毎朝のベッドメイキングを自分でしなさい。一日のその最初の仕事をきちんとやり遂げたことが、次にすべき仕事の数々を成功に向けて調子づける。そしてその日の終わりには、朝一番の小さな仕事が雪だるま式に膨らんで、多くの仕事がやり遂げられているだろう。』

———ウイリアム・H・マクレーヴン、米海軍大将特殊作戦司令長官


毎朝起きたらベッドを綺麗に整える、のような些細な事でもいいので、
毎日小さなことをきちんとやる習慣を身につける。

そうすることによって、人生がポジティブな方向に向かい、より一層弱者男性から抜け出しやすくなる。
この習慣は「英単語を5個覚える」「腕立て伏せを15回やる」などでもいいと思う。

いずれにしても、自分が毎日やることを決めて、それをやり続ける。

弱者男性の抜け出し方⑤:自分のやりたい事を見つける

本書では自分の「内面の力」を発見する手段として、
何でも心に浮かんだことを紙に3ページ書く「モーニングページ」という手法を紹介していた。

note.com

思いついたことを毎日紙に書くことによって、自分が何がやりたいか、何が欲しいか、どんな人間になりたいかが見えてくる。

それは、弱者男性を抜け出す、つまり自己実現とパートナーの獲得のための強力な手助けになる。

弱者男性の抜け出し方⑥:女友達を作る

「社交の場では、結果にこだわらないように。社交とはそれぞれ違った考え方と感情をもつ人が交わることであり、私たちにできることはせいぜいその場にいて、会話に加わることくらいなのだ。」

出典: フィリップ・ジンバルドー、ニキータ・クーロン(2017)『男子劣化社会』晶文社(309p)


少なくとも一人は若い女性の友達を作る。そして、自分が相手に求めているものはあくまで友情であり、
それ以上でもそれ以下でもない事をはっきりと伝える。

本物の弱者男性にとって、これは無理難題に思えるかもしれない。
しかし、女友達も作れない男の元に、はたして将来の彼女や伴侶が現れるだろうか?

気合いを入れて乗り越えないといけない。本書では何故女友達を作る必要があるのかは述べられていないが、
おそらく女性との関わりを持つ事によって、(対女性との)社交術を学び、
偏った考えや価値観を持たないようにする、といった理由だと思う。

どこで女友達を作ればいいのか分からなければ、趣味のコミュニティに参加する、
オフ会に参加してみる、習い事を始める、などが有効だろう。

私からアドバイスを一つ。女友達を作るコツは、「彼氏持ち(or既婚者)に友達になってもらう」ことだ。
ワンチャン付き合えるかも、などの下心や、「男としてどう見られているか」という緊張を持たずに済むし、
恋愛や性についての話題も比較的オープンに話しやすい。

弱者男性の抜け出し方⑦:女性を「ふしだらな女」と罵らない

『人は安全を求めて退却するか、成長を求めて前進するかを選ぶことができる。成長は何度も選ばなくてはならない。恐怖は何度も克服しなければならない。』

———アブラハム・マズロー人間主義の心理学者


弱者男性が想像(期待)する誠実さや純潔さを、女性が持ち合わせていないことはよくある。
そういった時でも、女性をふしだらな女と罵ってはいけない。

ましてや、「あの女はこんなにふしだらだ」と噂を流したり、SNSに投稿するなどは絶対にやってはいけない。

もし弱者男性がパートナーが欲しいと願うのであれば、女性を加害者に仕立て上げるようなメンタリティは捨てなければならない。
男女関係に限らず、全ての対人関係は衝突とハレーションのリスクがある。
そのリスクを受け入れなければならない。

弱者男性の抜け出し方⑧:メンターを見つける

男として尊敬できる、恋愛や生活、キャリアについての助言をくれるメンターを見つける。
もしそのような男性を見つけられなければ(実際、見つけるのは難しいと思う)、
まずは父親にメンターになってもらう事だ。

あなたの父親は、あなたとほとんど同じ遺伝的条件下で、仕事につき結婚してあなたを育て上げた。
メンターとしてこの上なく最適な存在だ。

本書内でも、メンターは「父親がまず引き受けるべき」と書かれている。

弱者男性を抜け出したいのであれば、まずは自分の父親に(きっと久々の連絡になるのだろう)
自分のキャリアや恋愛について相談してみよう。
きっと真摯に応えてくれるはずだ。

もし父親がいない、あるいは何らかの事情で父親とのコミュニケーションが取れず、
周囲にメンターになってくれそうな存在がいない場合は、
自分が尊敬できる男性をSNS、または映画などのコンテンツ作品から見つけ、
「私淑」という形でこっそりメンターとなってもらおう。

最近は匿名で著名人に質問ができるWebサービスもあるので、私淑している人に直接相談に乗ってもらうことも可能だろう。

弱者男性の抜け出し方⑨:選挙に行く

選挙へ行き投票し、自分の存在と意見を社会に表明する。
実際のところ、誰に投票するのかはそれ程重要ではない。
もしあなたが自分の投票権を選挙の度に行使するのならば、政治家はもはやあなたを無視できなくなる、という事だ。

社会の動向に関心を抱き、意思表示をして行動へ移せるようになれば、
少なくとも「存在を無視できる」という意味での弱者男性ではなくなる。

おわりに

『男は求められはしないので、必要とされなくてはならない。私たちはヒーローにならなくてはいけないと信じているが、それは私たちがまだ自分たちのために他の役割を見つけられないからだ。』

———ノア・ブランド、「グッド・メン・プロジェクト」編集長


以上が本書内で紹介されていた「男たちにできること」である。
実際、これらのアクションは男性がパートナーを獲得するにあたって有効なのだろう。
私自身、今後は上のアクションを実行して彼女を作りたいなと本書を読んで思った(実際、いくつかのアクションはすでに起こしている)。

それと同時に、私は多くの弱者男性が、(かつての私がそうであったように)上記のポジティブなアクションを起こせる状態にないのではないかとも思う。

弱者男性の多くが自尊心に傷を負っており、それによって
自分の生活や健康を損なう行動が習慣化されてしまい(=セルフネグレクト)、
自分一人の生活すらままならない状態にあるのではないかと危惧している。

そのような状況に置かれた弱者男性は、上記のアクションの前に、
まず自分の健康とメンタルをケアして、生活を立て直すフェーズが必要なのではないかと思う。

togetter.com


いずれにしても、男も女も関係なく、世界中の人間が愛し愛され合う世界が来る事を祈る。

以上、ここまで読んで下さりありがとうございました。


男子劣化社会