案件終わってサヨナラ、という訳でもなかったIT派遣
始めに言っておくと、この記事は事実を記載し、説明するものではない。
当記事内の事実は3つ
だけである。他は全て嘘の与太話だと思って貰って構わない。
また、大手SIerというデカい主語を何度も使ってるが、全ての大手SIerに当記事の記載内容が当てはまる訳では決してない。
あくまで、今現在自分が派遣されている会社、での話である。
一般的に、派遣と聞くと「派遣切り」という言葉がサジェストされるくらい、派遣社員は雇用の調整弁というイメージが強い。
しかし、IT業界においては、一般的なイメージ像ほど派遣社員を解雇(契約破棄)する事へのインセンティブが強い訳ではない。
むしろ、派遣先はあまり派遣社員を切りたがらないというか、出来るだけ自分の会社に留めたがっているように見える。
この記事では自分がそう思った出来事と、その意図の背景を説明する。
「あれ、プロジェクト終わったのになんで契約更新するの?」
2019年3月、自分がアサインされていたプロジェクトが無事納品完了となった。
元々そのプロジェクト完了の3/31までの契約、という話だったので、自分は当然この会社にいるのは月末までと思い、次の派遣先を探す気満々だった。
しかし、プロジェクト完了となったにも関わらず、派遣先から契約更新の打診があった。
しかも、次やる作業は"まだ決まっていない"というのだ。
驚いた。自分はプロジェクトも引き継ぎ準備も終えて、かれこれ2週間くらいは社内ニート状態だったので、
こんなん無駄だし勿論更新されないだろうなと思っていたのだ。
とりあえずその時は契約更新した(正直、また次の案件を探すのが面倒だった)。
契約更新日から次の日くらいに、PMの席に呼ばれた。
そして、ある資料を見せられて「どれ行きたいですか?」と聞かれた。
その資料とは、派遣先の部署が受注した案件一覧が載ったExcelファイルだった。
予算の消化度合いによって行に色が着くようになっていて、半分くらいが予算超過して真っ赤になっていた。
いや、いきなりこんなの見せられても、と答えあぐねていると、PMは
「ここの案件人が足りてないらしいから、是非そちらに行って欲しい」と
その資料に載ってる1つの案件を提案された。
ええ?前やってた案件と全然内容違うし、普通案件毎に新しく契約し直すもんじゃないの?つーか家から遠ッと思いつつも
とりあえず承諾した。
「これって二重派遣じゃないの?」
案件アサイン承諾後、PMは僕のスキルシートを(勝手に更新して)アサイン先のリーダーに送り、
自分はアサイン先の現場に行く事になった。
新しいPMとの簡単な顔合わせを1対1で済ませ、すぐに作業場所を用意して貰った。
この時点で、自分のステータスは
派遣元 → 派遣先 → 派遣先案件の現場(今ココ)
という状態になっていた。ここで作業するために、2つの会社を経由している。
そこで思ったのが、「これって二重派遣?」だった。
結論から言うと、二重派遣ではなかった。
派遣先は現場とは準委任契約を結んでいて、派遣社員として現場にアサインされた訳では無いからだ。
この辺の契約は色々とややこしいので、詳しくは説明しない。
もし知りたければ下のサイトを見て欲しい。
ともかく、この奇妙な状態に違法性は無かった。合理性があるのかは知らんが。
自分の頭にあったのは、以下の疑問だった。
- 何故1ヶ月近く仕事が無かったにも関わらず、切らずに更新したのか?
- 違法性は無いとはいえ、何故元々の契約にない案件に飛ばしたのか?
- 現場に来る前に見せられた、あの案件一覧は一体何だったのか?
新しい技術者を見つけるコスト>派遣を遊ばせるコスト
一つ目の疑問は、PMと話している内に分かってきた。
技術者を雇うというのは、とにかく面倒臭い上にコストのかかる作業なのだ。
理由は簡単に説明出来る。
低スキルの技術者 → 雇いたくない
中スキルの技術者 → 雇えたと思ったら辞退される(他に条件良い案件が見つかるため)
高スキルの技術者 → そもそも応募してこない
つまり、雇いたい技術者に中々リーチ出来ないのだ。そのためPMは結構な時間を採用に割かなければならない。
そもそも技術者のスキルを面接で見抜く、というのは中々難しい。口だけが達者な連中も多いからだ。
これに更に、新しい技術者の作業環境を整える、教育し直すというコストも加わる。
そして、早々と辞められてしまうリスクもある。事実エンジニアは簡単に早期離任する(1週間で来なくなった人を見たことがある)。
このように、「使える人材」を見つけて採用するのは中々難しいため、派遣先は社内で実績のある人材を求める、という事情がある。
新しい人材を採るコストは、今既に雇っていて稼働実績のある人材を遊ばせるコストよりも、はるかに大きいのだ。
大手SIerは部署内、部署間で人材を融通し合ってる
これは最後の話と繋がるが、大手SIerは出来るだけ沢山の案件を受注して売り上げを立たせるために、
出来るだけ沢山の人材をプールさせたがる。
そして、案件を獲得する際に、一々「ウチにはこれだけの技術者がいるから、この規模の案件なら獲れる」などと考えたりしない。
当然、獲ったは良いものの人が足りなかったり、逆に人員が余り過ぎたりが発生する。
そのギャップを解消するために、大手SIerはHRMシステムを使って、社内の人材のスキル及びステータス(稼働度合い)を把握して、
暇な人材を忙しい案件に回す、という事をやる。
その人材の融通はかなり柔軟で、部署内は勿論、時には別の部署同士でも行われる。
極端な例だと、Web開発部門の人材が制御アプリケーションの部門に送られたりする。
こうして、人材をあちこちに回して案件を成り立たせてるのだ。
だからこそ、既に働いてる人材(派遣社員も当然含まれる)にはなるべく辞めて欲しくない。
頭数で受注できる案件の数が決まるからだ。
大手SIerは複数案件を常時プールしている
最後の疑問については、PMの話に基づく推論になる。
大手SIerは各部署、各部門毎に売上達成目標があり、どうやら営業はアサイン出来る人材の数度外視で
遮二無二案件を受注しまくってるらしい。
「人は後から見つけてくればいい」という発想だろう。
これはよく考えたらおかしな話だ。チラシだけ見せてお金を取って、後から商品開発して客に送るみたいなもんだろう。
だって案件が成功するかどうか、そもそもアサイン出来る人がいるかどうかも営業は分かってないのだから。
シリコンバレーでは先に商品をプレゼンして、投資家からお金引っ張った後にエンジニアを集めて開発に取り掛かるそうだが、
日本の大手SIerは知らず知らずの内にシリコンバレー流の商売をやっていたのだ。
発注側も、「まあ大企業だし、実績もあるだろうから、多分大丈夫じゃろ」と安易にSIerに投げてるのでは無いだろうか。
受注先が中小だった絶対にこうはいかないだろう。
「本当にプロジェクト成功させられるんですか?技術者をここに連れて来て下さい」となることは間違い無い。
当然、そうやって雑に案件を獲りまくったらあちこちで炎上が発生する。
しかし、大手SIerにとっては全く問題無い。
よその案件の赤字は、別の案件の黒字でカバーすればいい。
つまり、また新しい案件を獲得すれば良いのだ。
仮にその案件が行く行く赤字になったとしても、それは来年の話だ。
当面の売上は黒字になる。赤字を先延ばし出来るのだ。
こうして、大手SIerには管理しきれない案件が溜まっていく…
派遣社員にとって、この状態は得なのか?
では、この「派遣元ではなく、派遣先が案件をする」状態は、果たして派遣社員にとって得なのか損なのか。
自分なりに考えるメリットとデメリットがあるので、そちらを説明したい。
メリット
案件探しが楽
案件探しにかかる労力は、派遣元で探すよりも圧倒的に少ない。
もし契約満了の度に新しく案件を探すとしたら、毎回顔合わせという名の面接があるし、
中々合格しなければ無給の期間が生まれるリスクもある。
一方、派遣元が新規に別プロジェクトをアサインしてくれるなら、
経歴書の編集、面接等の手間は省ける。勿論無給の期間も発生しない。
長い期間同じ会社で働ける
いくら転職と離任が多いIT業界といえど、数ヶ月単位で会社を変える技術者は、何か人間性に問題アリと判断される可能性がある。
また、プロジェクトのライフサイクルを一巡した事の無い技術者は未熟とみなされがちだ。
そのため、一つの会社に長くいた方が、後々「長期間仕事を任せられる人」であると信頼を獲得しやすい。
そういう意味では、派遣元で2〜3年働いて、尚且つ色々な案件を体験できるのならば、キャリア的には結構お得なのだ。
デメリット
給料アップは難しい
実を言うと、自分は2年弱の間に時給が150円上がっている。しかし、単に真面目に仕事して評価されるだけでは
給料は上がらない。派遣元との交渉が必要となる。
普通はプロジェクト内容と技術的難易度に応じて給料を変えるべきだが、
派遣先が自ら給料アップを提案して下さる事はまず無いだろう。下がる事も無いけど。
案件を自由に選べる訳ではない
派遣元がプールしている案件全ての中から選び放題、という訳でもなく、
人の足りてない、つまり炎上してるか、もしくはつまらない案件を回される可能性は高いだろう。
派遣雇用のメリットとも言える「案件の自由度」が制限される事となる。
どのような人にオススメ出来るか
業界歴1〜3年程度の比較的経験の浅い技術者にはオススメ出来るかもしれない。
初心者のうちは案件探しに苦労するし、後のキャリアのためにも、一つの会社内で長く働いた実績があった方がいいからだ。
以上、長々と自分の体験談と考察を述べてきたが、何故このようなややこしい事になっているかと言うと
結局「人がいないから」に尽きる。
本当に技術者が不足している。ハイレベル層も勿論、オペレーター層も充足しているとは言い難い。
その癖人材の流動性だけは高いので、契約の網目を掻い潜るトリッキーな労働形態が生まれる。
いつまでそうなのか分からないけど…
(もう10年で終わる気もする)
あとがき
インターネット上で見かけるIT業界についての情報は全て偏っている。
「事実ではない」という意味ではなくて、事実の中の他人の興味を惹く部分だけが強調して話されている。
その方が読む方も書く方も面白いからだ。
誰も無味乾燥な実態を書こうとも読もうともしない。
しかしその結果、極端な情報だけを事実として受け入れてしまう人が出てきかねない。
このリスクは、業界未経験者だけでなく、長年IT従事者として働いてる熟練者にもある。
どれだけ業務に精通していても、自分が働いてる会社(もっと言うと案件)の外の事情を知る機会はあまり無いからだ。
あったとしてもそれは飲み会の席くらいで、そこではインターネットと同じく事実の極端な部分だけ切り取られて話されがちだ。
より正確な実態を把握するには、退屈だけどニュートラルな情報が必要だと思う。
そしてそういうつまらん事実の羅列は、お金を貰ってなくて読む人の少ない(いない)ブログでこそ可能なはずだ。
僕のブログみたいなね