俺には勉強しかない

140字のその先

【良本】『正しい家計管理』書評 自動的にお金が貯まるシステムをつくる

家計の経営は一生の仕事です。絶対に倒産は許されません。
「家庭を倒産させない」という重責を背負った家計管理者であるみなさんに、
私の尊敬する経営学者、ドラッカーのこの言葉を送ります。


『企業にとっての第一の責任は、存続することである』


この言葉は、こうも言い換えることができます。


『"家庭"にとっての第一の責任は、存続することである』


貯金は難しい。
去年までの自分にとって、お金は「知らん間に湧いてて、知らん間に無くなってる」存在だった。

何度か「お金を貯めよう」と決意し、節約に走った事もあったが、
ストレスを感じた時や、大きな転機を迎えた時になし崩し的に財布の紐が緩み、
結局あるだけお金を遣う生活に戻ってしまっていた。

2018年9月、無職生活を三ヶ月続けたら、気づいたら預金残高が1000円になっていた。

今は親元で生活しているのもあって少しずつ貯蓄出来ているが、
「自分はいくら遣ったのか」「今月残りいくら遣えるのか」「今後どのくらいお金が必要なのか」
は依然として不透明なままで、月末になるとクレカ引き落としが怖い生活を送っている。

そんな状態を変えるべく、この本を手に取った。

結論から言うと、この本は他の節約術/家計術を謳う本とは一線を画す、マジで素晴らしい本でした。
こまい節約の類は一切出てこなくて、いかに黒字を出すシステムを作るか、が分かりやすく書かれてます。
管理会計的な視点からの解説も多く、再現性が高い(=誰でも効果が出る)上に説得力がありました。
著者は経営コンサルやってる公認会計士らしいのでさもありなん、って感じですが。

この本は、いかに"黒字システム"を構築するかが詳細に書かれた手順書です。

"黒字システム"を作るための目的として、本書には以下のように記されています。


『毎月1円でもいいから純資産を増やす』


そして、家計管理の目的として以下が記されています。


『自分と家族が、現在も未来も幸せに暮らすこと』


どんぶり勘定は低収入より恐ろしい


「毎月入ってくる金額は分かるけど、自分がどんな生活をしていて、何にいくら使っているのか分からない」


このようなどんぶり勘定でやり繰りしている人は危険だ。
支出は基本的には年齢とともに上がっていくので、たとえ高収入であったとしても
気づかない内に少しずつ生活に余裕が無くなっていく。

そして、「必要な時に必要な金額が用意できない」という事態に陥る可能性が高い。
年収1000万でも教育ローンを借りてギリギリで生活している家庭も意外と多いのだ。

何より「今月大丈夫かな…?」って心配をしながらお金を使うのは気持ち良くない。

どんぶり勘定となってしまうのは、

  • 「家計の実態」を把握していない
  • お金を使うときの判断基準がない
  • 口座を分けていない


上の3つの原因がある。

「黒字システム」は、基本的には上の3つの原因を解消するシステムである。

預金は義務

預金は余ったお金ではないし、余ったお金でやるものでもない。
預金は将来の支出である。


預金が無い、預金をしていないというのは、
将来確実に支払うであろう支出、それもデカい支出を払えないという事であり、
生活の破綻を意味する。


しかし同時に預金が難しいのも事実。
自分の意思の力で預金するのは絶対に不可能位に思っておいた方がいい。

黒字システムでは、預金を「固定支出」として扱い、毎月一定額を用意した口座に振り込む仕組みとなっている(詳細は後述)。

家計簿はあまり意味がない


最近では、レシートを見直すという家計管理が人気です。
自分が何にお金を使ったかが見えるので、確かに節約効果はあります。

しかし、これは予算管理という点においては、きわめて前近代的なやり方です。

「レシート」という支出が先にあるので、反省はできますが、管理はできません。

家計簿にそれ程意味が無い理由は、過去のお金の使い道にあーだこーだ言っても仕方ないからである。

勿論、支出の実績を記録する事は大事だし、黒字システム構築にあたって必要な作業でもある。
しかし、「過去の実績を記録すること」と「純資産を増やすこと」は、実はまったく結びつかない。

何より「判断基準」がないと過去の実績がどうであったか判別がつかないのである。

それに、家計簿をつけるのも、継続して続けるのも、言わずもがな難しい。
預金や節約以上に多くの人が挫折するであろう。


黒字システムは、基本的には逐一家計簿をつける必要はないシステムであり、支出の度に記録する手間を省いてくれる。

行動計画ありきの家計管理

黒字システムを一言で表すと、行動計画の費目化/予算化だ。
つまり、自分が何をしたいのかを整理して、それに合わせて予算を組むのが黒字システムだ。


例えば、「年に一度はタイへ旅行に行きたい」「月末には焼肉食べたい」のような自分のやりたい事を、
「タイ旅行費」「焼肉費」みたいに個別に費目化して、必要な予算を組む、といった形だ。

具体的な予算の組み方は後述するが、黒字システム構築のために一番大切な事は

「自分が何をしたいか」

という事を忘れないように!

「黒字システム」のために用意するもの

黒字システムは、以下の資材を用いて構築する。
優先度が高い順に上から並んでいる。

なお、本書ではこの順番で紹介はされていないが、
途中で挫折してもいいように順番を入れ替えて紹介しているので注意

  • やりたい事リスト
  • 入金専用口座
  • 出金専用口座
  • 財産目録ノート
  • 1年間の収支実績表
  • 1年間の特別支出予測表
  • 予算・収支ノート

やりたい事リスト

一番大事。毎月やりたい事、毎年やりたい事、いつかやってみたい事、何でも書こう。
たとえ黒字システム構築に挫折してもこのリストは残ります。

入金専用口座

毎月一定額が自動的積み立てられる口座。つまり預金用。
ここに入っているのは使ってはいけないお金です。

使っていいお金と口座を分ける事によって貯まりやすくなる。

出金専用口座

使ってもいいお金の専用口座。ここに毎月組み立てた予算分の金額を移す。
可能であれば総合口座にすること。予算オーバーした時、引き落とし不能になる事を避ける事が出来る。

余談だが、アメリカの会社は入金・支払い専用の口座を分けて予算管理するのが主流らしい。黒字システムではそれと同じ事をやる。

財産目録ノート

自分が所有している全ての財産(不動産含む)と、自分が抱えている全ての負債を記録したノート。

真っ先に確認すべきは「借金があるかどうか」だ。

住宅ローンや車のローンを借りてる人はトータルでマイナスとなっている可能性が高い。
自分の財政状況を把握して、少しでも早く黒字にする事!

1年間の収支実績表

昨年の収入と、使ったお金の実績を記録した表。
現実的な予算を組み立てるために必要。

通帳の引き落とし等をベースに、あくまでもザックリと作る事。

1年間の特別支出予測表

固定資産税、車検、住民税、家電など、1年のどこかで支払う「特別支出」の内、
予測可能なものの支払い予定日と金額をリストアップしたもの。

特別支出を絶対になめてはいけない。

実は特別支出の合計金額と、固定費(家賃、月謝など)の合計金額は、ほぼ半々という家庭が多い。

そのため、予測出来る特別支出を把握して、それぞれリストアップする必要がある。

予算・収支ノート

以下の情報を記載したノート。

  • 1年間の予測手取り収入(ボーナス除く)
  • 強制預金額
  • 管理不能支出(=固定費)
  • 管理可能支出
  • ボーナス予算

一番下の「ボーナス予算」は、ボーナスの予測額と、ボーナスで賄う支出をまとめた支出表である。

ポイントは2つ。
1つは

「管理可能支出」=「手取り年収」 ー  (「強制預金額」 +「固定費」)

である事。
もう一つは

特別支出は原則ボーナスで賄う

という事である。
管理会計では、

固定収益→固定支出をまかなう
変動収益→変動支出をまかなう

がセオリーであり、それを守る事によって変化や危機に強い家計を作る事が出来る。

「黒字システム」構築手順

結構手の込んだ事をやるので、ここでは概要のみ説明する。
詳しい理論と手順は実際に本書を読んで確認して頂きたい。

「恒常的に黒字を出し続けるシステム」なので、やっぱりそれなりに手がかかります。

1、 「やりたい事リスト」をつくる

冷蔵庫買いたい、月一で焼肉行きたいなど、自分のやりたい事をリストアップする。
管理しやすくなるので、はじめの内は1年以内にやりたい事を書いた方がいいかもしれない。

2、 入金専用口座/出金専用口座を開設する

入金専用口座と出金専用口座、それぞれを開設する。

今自分が使っている給料が毎月入る口座とは別なので注意。

出金口座は何でもいいと思うが、
入金専用口座は、給料受け取り口座から自動で送金できる銀行がいいと思う。

個人的には「じぶん銀行」がおススメです。自動送金が毎月無料で使えるので。

www.jibunbank.co.jp

それと、普通預金にする事(いざという時におろしやすくするため)。

3、 「財産目録ノート」をつくる

自分が持っている全ての口座の通帳、株式、不動産、借用書をかき集めて、
プラスの財産、マイナスの財産の合計をノートに記録する。

そして、自分が実質

本書では一貫して手書きと現金での管理を推奨しているが、個人的にはMoney Forwardでいいんじゃないかと思う。

4、 「1年間の収支実績表」をつくる

口座の入金/引き落とし履歴を元に、昨年の毎月の収入/支出の実績を記録する。
予算を組むための指標となるので、可能であれば支出は費目毎に集計すると、より現実的な予算が組める。

5、 「1年間の特別支出予測表」をつくる

同じく口座(クレカ明細でも可)の履歴を元に、昨年の額が大きい特別支出を集計する。
そして、それを参考に今年支払うであろう特別支出を洗い出し、表としてまとめる。

6、 「予算・収支ノート」をつくる

  1. 作成した収支実績表を元に、毎月の予測手取り収入を見積もる
  2. 継続可能な強制預金額を決める
  3. 毎月の固定費を洗い出す
  4. 「やりたい事リスト」を費目化する(例:月一で焼肉行きたい → 「焼肉費」)
  5. 手取り額から預金額と固定費を差し引いた金額内で、④で作成した費目に予算を割り当てる
  6. ボーナス予測額と、ボーナスで賄う特別支出を1:1で表にまとめる

上記の内容を「予算・収支ノート」にまとめる。
ノートの書式も書内で解説しているので、そちらをご参考に

7、 毎月、預金と予算額を専用口座に振り込む

預金は自動送金で入金専用口座に、予算額は手動で出金専用口座に毎月振り込む。

出来る限り預金用のお金を自分から遠ざけるように、とにかく自動送金にこだわろう。

出金専用口座への振り込みを自分の手で行う事で、お小遣いとして自分の財布に入れるお金を差し引く事が出来る。

出来るところから始めよう!

黒字システムの構築は、上の通り凄く面倒だし時間がかかる!
家計によっては構築に3ヶ月、長いと半年くらいかかるらしい。

しかし本書には、いったんシステムを構築したら、本当にお金の悩みから解放されると書かれている。

その具体的な方法と理論の説得力を、是非読んで確かめて欲しい。


正しい家計管理


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感想

マジで素晴らしい本だった。一生本棚に置きたいと思った本は久しぶりだ!

この記事で紹介した内容以外にも、固定費の見直し方、中長期的な家計管理の方法について
素晴らしい洞察が沢山載っている。

読むだけでなく、この本の内容を実践して、決して頑丈じゃない私の家計を立て直したい。


残念な点が一つ。
この著者は一貫して「現金での予算管理」を推奨している。
クレジットカードには完全否定派だし、2014年出版の本という事もあり
キャッシュレス決済については一切触れられてない。

現金にこだわると、増税分損をしてしまう。

キャッシュレス決済とポイント還元を駆使して、少しでも損を取り返す。今はそんな時代になったと思う。
しかし、キャッシュレスもポイント還元も、結局は企業側がしかけた顧客により多くのお金を使って貰うための仕組みに過ぎない。
「お得」「セール」「キャンペーン」、これらの言葉に高揚させられて、お金を使い過ぎないように自衛しなければ


そして、そのためのシステムはこの本を読んだ私自身が構築する必要がある。